不正咬合の種類(1)反対咬合
前回までは、子供の患者さん、大人の患者さんの「よくある質問」についてお答えしてきました。今回からしばらくは、基本的な歯並びについての説明をQ&A形式で説明していきたいと思います。
Q:歯並びやかみ合わせの治療をされている患者さんの中で最も多い症状は?
最も多いのは反対咬合(はんたいこうごう)、叢生(そうせい)です。以前は反対咬合が1番でしたが、近年は叢生の方が多くなっているかもしれません。この2つは誰が見てもわかる不正咬合ですので、割合としても多くなるのだと思います。
Q:反対咬合とはどのような症状でしょうか?
反対咬合とは、一般的に受け口といわれるもので、下の歯が上の歯よりも前に出ている状態です(下写真)。
機能的には食べ物を良く噛めない、発音がしづらいといった悪影響があります。
歯並びの見た目もそうですが、下あごが前に出ている場合が多く、顔貌にも影響を与え、下顎前突ともいいます。
受け口の場合はやはり遺伝的な原因が関与しているケースが比較的多く、ご両親、ご親戚の誰かが受け口、または受け口ではなくても下アゴが大きい骨格の場合は、その遺伝的な影響でお子さんも下アゴが大きくなりやすく、症状が軽い場合でも注意する必要があります。
厄介なことに下アゴは、身長が急激に伸びる思春期に、腕や足の骨と同時期に大きくなりますので、小さい頃は受け口でなくても、成長するにつれて下アゴが大きくなり受け口になる人もいます。
Q:いつごろか治療をはじめるのがいいのですか?
本格的な成長が始まる前の小学校3,4年生までには始めたほうがいいと思います。以前は「前歯が永久歯に生えかわるまで様子をみる」というのが一般的でしたが、最近は、もう少し小さなお子さん
でも比較的簡単に使える装置がありますので(下写真)、もっと早い時期、未就学児のころから治療を開始して、治った後、長期間経過観察を行う治療方針をとることが多くなってきました。
未就学児でも使用可能なムーシールド
Q:永久歯が生えてきてからはどのような装置で治療をしますか?
歯が生え変わり中のお子さんの場合、骨格的な問題があまり無いようであれば、歯の裏側から付ける簡単な装置だけで治して(写真1)、その後は経過観察を行っていきますが、骨格的な問題がある場合は自分で取り外しができる、野球のキャッチャーマスクのような装置(写真2、3)を夜間使用してもらい上アゴを前に引っ張って成長を促します。
写真1 クウォードヘリックス。前歯を裏側から押して反対咬合を改善しているところ
先ほど説明したように、思春期に下アゴが大きくなりますので、治ったあとも定期的に観察、予防をしていく必要があります。
写真2 上顎前方牽引装置。口の中には固定式の装置が入っており、その装置の金具に輪ゴムを引っかけて使用する
写真3 上顎前方牽引装置。横から見たところ
Q:永久歯が生えそろってからはどのような治療をしますか?
すべての歯に金具を付けるマルチブラケット装置(写真4)を使用して治療を行いますが、永久歯がすべて生えそろっていても、まだあごの成長がたくさん残っている場合は、ある程度成長が止まるまで様子を見る必要があります。一般的には男子は女子に比べて、思春期成長が始まるのが遅いため、治療開始時期が遅くなります。
写真4 マルチブラケット
成人の場合も治療方法は同じですが、必要に応じて前述のクウォードヘリックスや上顎前方牽引装置を併用することもあります。
稀ではありますが、矯正治療による歯の移動だけでは受け口が改善できない骨格的な問題のある方は、外科手術を併用しないと治せないこともあります。
また、矯正治療だけでもある程度の顔貌の変化は期待できますが(写真5、6)、より大きくアゴの突出感を治したいという方もいらっしゃると思います。
残念ながら矯正治療だけではアゴの形や位置を変えることはできないため、その場合も外科手術を併用することになります。当医院では行っていないため、詳しい説明は省きますが、約1か月の入院が必要で、健康保険が適用されます。
写真5 矯正治療前の側貌レントゲン写真
写真6 矯正治療後の側貌レントゲン写真